禁断のプロポーズ
 まあ、桜が幸せそうなので、これはこれでいいか、と思った。

「ねえ、一応、誰か気になる人は居たの?」

「は?」

「さっき、好きな人のことを訊いたとき、一瞬、詰まったじゃない」

「いやー。
 ……そういうわけでもないんですけど」

 そういいながらも、思い出す光景はあった。

 雨の中、その人はしゃがんでいた。

『なにしてるんですか?』

 何故、声をかけたのかと問われれば、まあ、桜が言うように、ぱっと見て、気になったからだろうな、とは思う。

 ただ、やはり恋とは違うと思うのだが。

「ほら、桜さん。
 お茶の時間ですよ」

 あっ、と桜は腕時計を見、
「ほんとだ。
 嫌だ、あんたに指摘されるなんて」
と言う。

「世の中、助け合いですよ」

「……なんか、無茶苦茶むかつくんだけどっ」

 そう言いながらも、桜は一緒にお茶の準備を始めた。

「専務の話をしてたら、夢中になっちゃったわ」

 こちらに背を向け、戸棚を開けている桜に微笑んだあとで思っていた。

 でも、やっぱり、あの人はやめた方がいいですよ、と。
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