禁断のプロポーズ
休憩時間、トイレから出た未咲は、
「ちょっと」
と洗面台の向かいにあるパウダールームに立っていた女に呼び止められた。
さすが一流企業の秘書課のトイレ。
デパートのように、ちゃんと別にパウダールームがある。
「あ、平山さん。
お疲れ様です」
と丁寧に頭を下げてみたが、女優ミラーのライトを背に桜は威圧するように自分を見て言う。
「あんた、なに、専務の気を引こうとしてんのよ」
「は?」
桜の顔は、整形か? と疑いたくなるくらい、左右対称に整っているが、そうでないことは、この山のようなプライドが物語っていた。
「おかしな言動で、専務の気を引こうとしたでしょう」
と言われたが、残念ながら、
『志貴島です』
しか、しゃべっていない。
となると、おかしいのは、言動の動の方か。
頭を下げて、妙な焼き物を凝視してただけなんだが。
「私なんて、専務の秘書に配属されるまでに……」
と延々と桜が苦労話を語っていたのだが。
未咲は、自分のおかしな言動というのは、何処の部分なんだろうと思って聞いていなかった。
「わかった!?」
と仁王立ちの桜に言われ、思わず、
「えっ、もう一回言ってください」
と言ってしまう。