禁断のプロポーズ
 

 休憩時間、トイレから出た未咲は、
「ちょっと」
と洗面台の向かいにあるパウダールームに立っていた女に呼び止められた。

 さすが一流企業の秘書課のトイレ。

 デパートのように、ちゃんと別にパウダールームがある。

「あ、平山さん。
 お疲れ様です」
と丁寧に頭を下げてみたが、女優ミラーのライトを背に桜は威圧するように自分を見て言う。

「あんた、なに、専務の気を引こうとしてんのよ」

「は?」

 桜の顔は、整形か? と疑いたくなるくらい、左右対称に整っているが、そうでないことは、この山のようなプライドが物語っていた。

「おかしな言動で、専務の気を引こうとしたでしょう」
と言われたが、残念ながら、

『志貴島です』
しか、しゃべっていない。

 となると、おかしいのは、言動の動の方か。

 頭を下げて、妙な焼き物を凝視してただけなんだが。

「私なんて、専務の秘書に配属されるまでに……」
と延々と桜が苦労話を語っていたのだが。

 未咲は、自分のおかしな言動というのは、何処の部分なんだろうと思って聞いていなかった。

「わかった!?」
と仁王立ちの桜に言われ、思わず、

「えっ、もう一回言ってください」
と言ってしまう。
< 8 / 433 >

この作品をシェア

pagetop