空っぽのイヤホン(仮)
五十嵐に抱きしめられていることでさっきまで火照っていた体が冷めていく。

こんなの、なんで、自分勝手だよ。

私の気も知らないで、どうして彼女だなんて嘘つくの。

聖奈さんって誰?

五十嵐は、聖奈さんが好きなの?

聞きたいことが溢れてきて、吐き出すことのできないまま悲しい気持ちを連れてくる。

「…もういい、勝手にしろ。」

投げ捨てるような萩野くんの言葉。

入ってきたとき以上に乱暴に開く扉の音。

それが閉まったのを見届けた五十嵐が
やっと私を解放してくれた。

「ごめん、みっこ。
巻き込んじゃった…よね。」

そう言った五十嵐の顔は
いつか見た切なげで今にも泣き出しそうな顔だったから

文句を言おうと思っていたのに、言えなかった。
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