ゆーとゆーま
 由布とゆーまの最寄り駅は、そこそこ繁栄している市内でもそこそこ繁栄している街のど真ん中にある。

 普通に暮らす分の買い物には全然困らないし、もちろんお花屋さんも何軒かはあって、そのどこかに行けばスズランくらいあるはず、と由布は思っていた。何せスズランの日だ。プッシュしたり、いつもより多く入荷していたっておかしくない。

 電車の待ち時間を利用してお財布の中身も確かめてある。ラッキーなことに、お小遣いを補充したばかり。せっかく思い出したのにお金が足りなくて買えないとかヒサンすぎる。


 改札を出て三分、意気揚々と向かった駅から一番近くて大きなお花屋さんには、スズランの花はもうなかった。

 タッチの差で売切れてしまったのだと店員のおばちゃんは言った。

 今年はメディアでの宣伝が多かったらしい。お買い上げする方が予想以上に多く、これは閉店まで間に合わないと思っていた。

 お一人様何本までと制限をつけてはいたが本数が追いつかず、つい先ほど、由布のお父さん世代と思われる年のころのイケメンが買っていった。

 ごめんねぇ。

 すまないとも思ってなさそうな表情で言うおばちゃんに頭を振り、由布は早々に次の店へと歩き出した。ここで理不尽な怒りをぶつけたってしょうがないし、売る側は完売を喜んでしかるべきだ。おばちゃんは悪くない。

 駅から二番目に近い、スーパーの外に併設されたお花屋さんでも、スズランの花はもうなかった。
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