ゆーとゆーま
幸せが帰ってくる
 大変だ、スズランを買ってない。

 気付いたのは良かった。

 おい日直、ちゃんと仕事しろよー。授業の始め、数Bの先生によって金曜日からずっとそのままだった黒板の日付が直され、五月一日になったのを由布はあんぐりと口を開けて見入った。

 そうだ、そういえば四月は三十日までしかないじゃないか。

 今日から五月だ。そして一日といえば由布とゆーまの間ではスズランの日だ。言い出したのは確か小さかった時のゆーまで、毎年、お互いにスズランを贈りあう習慣。二人にとってのメジャー度は、例えると母の日のカーネーション並みだった。

 ところが始まってしまった授業は七時間目。

 五時間目や六時間目ならその後の授業をサボって買いに行くことも出来たが、七時間目になればもう、このまま放課後を待つしかない。始まってしまった授業をボイコットする度胸はなかった。

 ――別にやっても良いけど、後で生徒委員の美依に怒られるのは目に見えてるし。美依はどうもクラスで浮きがちな由布のお目付け役を自任しているようだった。

 数Bのプリントの余白に、知っているだけのお花屋さんを並べて、ついでにどう回れば効率が良いのか地図も描き出してみる。作業に熱中すれば先生の話は右から左に勝手に流れていき、書くことがなくなった最後の十分だけがやたら長く感じた。


 チャイムが鳴ると同時、委員会決めの時にしたかったようにぴゅーんと教室を飛び出す。

 今日は、由布を止めやがる人は誰もいなかった。
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