ゆーとゆーま
 途中、白衣を片手に降りてくるおじさんとすれ違う。ノーフレームの眼鏡をかけた知的な方である。さすがお医者さん。今日もダンディだ。由布ちゃん、いつも悪いね。由布は苦笑しながら頷いた。

 部屋のドアは少し開いていて、由布が来るよりも前に、おじさんがゆーまを起こそうと四苦八苦していたようだった。胸のあたりでめくれていたかけ布団を一気に剥ぎ取ってみる。甘やかしのおばさんならそっと直してあげるだけかもしれないが、由布はそんなことはしない。

 いつまでも眠ってるゆーまが悪い。だから容赦もしない。
 

 由布のゆーまを起こそう大作戦そのいち、ゆーまの鼻をつまむ。

 準備が要らず簡単であり、今まで何度も使ってきた作戦であり、毎回ゆーまに一発KOされてきた作戦でもある。

 普通呼吸するのを阻まれれば起きそうなものだが、ゆーまは器用に口呼吸へ切り替えてしまう。これを防ぐには口と鼻をいっぺんに塞ぐしかない。片手でゆーまの鼻、ゆーまの口はもう片手の手のひらで。あるいは……。

 …………。
 やめやめ、次。


 ゆーまを起こそう(略)そのに、ゆーまのケータイを大音量で鳴らす。これは昨日思いついた。

 ケータイは机の上にあった。ストラップも何もついてないシンプルな青色のやつ。由布はひざ立ちでにじり寄り、それを手に取ると手際よくロック解除のためのパスワードを入力した。

 何で知ってるかって、まあ、幼なじみ兼彼女のいろいろで。
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