キスより甘くささやいて
やっぱり、あの手紙は颯太をフランスに誘う手紙をだった。
思った通り、オーナーはフランス語が出来た。
だってgâteauってフランス語ででしょう。
パティシエのコンクールで優勝して、
店を構えた先輩のピエール・ウィタリという人から、颯太に店を手伝って欲しいと、
コンクールを目指す手伝いも出来ると思うと書かれていたらしい。

オーナーと私は深い溜息をつく。オーナーが
「僕は知りたくなかったなぁ」と微笑む。
「美咲ちゃん、どうするつもり?」と聞いてくる。私は笑って、
「オーナー、この先は、知らない方がいいですよね。」
と言って、オーナーの瞳を覗く。オーナーは
「僕も考えなくっちゃいけないって事か。」と呟いた。私は
「すみません」と頭を深く下げた。
この後、私がする事は決まっている。
オーナーをgâteauに残し、私は外に出て、
持ち歩いていた名刺を取り出し、
颯太の昔のオンナに電話をかけた。

帰り道、私は泣きながら道を歩く。
知りたくなかったよ、颯太。
手紙なんて捨てておいてくれれば、何も知らずに一緒にいられたのに。
でも、捨てられなかった颯太の気持ちが
そこに積み上げられている事を私は知っているのだ。
時折、机の上の手紙をみつめていることに。
時折、海を見つめながら、ボンヤリ考え込んでいることに。
愛しているから、ずーっと見てるから、わかってしまうのだ。
ここに来る前の颯太に戻って欲しい。
私は涙を拭き取りながら、そう思った。
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