キスより甘くささやいて
颯太は私を抱きしめたまま、
「俺は、もう、美咲がいない人生は考えられないって結論が出た。
どんな事があっても、それだけは変えられない。」と耳元で囁く、
「美咲はきっと、俺のために手紙を持ち出したってわかってる。
毎月来てるらしい手紙を溜まっていくのを大切に積み上げて、
捨てもせず、気にしている事がわかったんだろ。…ちゃんと話すべきだった。
俺が、コンクールを目指してた気持ちが捨てられないって。
ちゃんと話して、美咲にフランスについて来て欲しいって、そう、頼むべきだったな。
…たとえ、美咲が頷かなかったとしても。
そうすれば、美咲がこんなに悩む事はなかったんだ。
ゴメン、美咲。」と続けた。そして、
「美咲、一緒にフランスに行って欲しい。」と瞳をジッと見る。
無理だよ。颯太。
「私のやりたい事はフランスにはないの。だから行かない。」
ついて行っても、颯太を待つだけの日々は、きっと、颯太の負担になる。
颯太は、私を一緒にいたいっていう理由だけで、
連れて行ったという負い目をずっと負わなければいけなくなる。
それは私にとってもきっと辛い。

「はっきり言われると、へこむな」と、颯太は顔を歪める。そして、
「美咲は俺を愛してる?」と真剣な声で聞く。
それは、もちろん。
「とても、愛してる。」と私は迷わず、返事をする。
颯太は溜息と一緒に
「俺も、すごく愛してるよ。
もし、フランスに行くのを止めて、美咲と一緒にいる事を選んだら?」
「私は、苦しくなって、一緒にはいられなくなる。
もう、颯太がコンクールを目指す気持ちを知っているから…」
と言うと、颯太は眉間にシワを寄せる。
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