キスより甘くささやいて
私はこのホテルにもうひとつ部屋を取っておいた。
真夜中のエレベーターは誰も乗ってこない。
ひとつ下の階で降り、カードキイでシングルルームに飛び込んだ。
涙で前が見えない。
声を出さないように泣きながら、洗面に水を張って、スマートフォンを沈める。
これで、誰からも連絡は来なくなった。
服を脱ぎ捨て、
シャワーを頭から浴びながら、四つん這いになり、好きなだけ泣き続けた。
涙はいくらでも流れて、絞り出すような声がバスルームに響く。

何度もこれで良かったのだと、自分に言い聞かせる。
颯太を自由にしてあげる。
そう、自分で決めていた。
颯太が、どう思ってもかまわなかった。
新しい仕事や、環境はきっと、颯太に好ましいものだろう。
きっと、仏頂面でも女の子には彼の魅力がすぐにわかるだろう。
颯太のまっすぐな眼差しが他の誰かに向けられる日がきっと来るだろう。
私は大丈夫。
颯太の思い出だけできっと、生きていける。

十分に愛された。
心も身体も颯太は全部欲しがった。
全部を手に入れたくて、もがき苦しんでた。

私はもう、とっくに全部颯太のものだよ。

私の心は、全部フランスに持って行っていいよ。

そう思った



愛してるよ颯太。永遠に。
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