キスより甘くささやいて
第9章 海辺の町で

柔らかい陽射し

明日から4月だ。
私は学校を卒業して、緩和看護の専門ナースの肩書きを手に入れた。
4月の5日付で潮騒療養所に勤める事になっている。
病院を決める時には結構迷ったけど、
私が最初にこの道を志した場所に勤める事にしたのだ。

gâteauも、颯太の家も無くなったのに
七里ガ浜を生活の場所に選ぶなんて、おかしな事だと思うけど、
まあ、思い出がありすぎるこの場所を今の私が選んでしまっても仕方がないか。
と自分自身に言い訳する。
そう、颯太が帰る気になったら、偶然会えるかもしれない。
以前、颯太は偶然会うまでに10年かかったって言ってたし
…私も、10年ぐらいは待っていられるだろう。
と楽観的に考える。
私はまだ、左の薬指にマリッジリングとエンゲージリングを重ねてつけている。

3年経っちゃったよ。颯太。
私はもう、31歳になった。
少しは大人になったかな。
髪は黒髪のままだけど、長くなって背中に届くよ。
あいかわらず、おっぱいは育ってないけど、
少しは女らしい体つきになってきたって、シルビアママが言ってくれた。
(女は30才から。っていうのがママの最近の口癖だ)
今日は山猫で私の卒業祝いをしてくれるらしい。
来週ならば、病院で用意してくれたマンションに引っ越し済みなのに…。
シルビアママは、3月に卒業祝いで、4月は就職祝いだって言い張って、
今日は仕方なく海辺のホテルを予約した。
まあ、きっと、酔っ払ってしまえば、
山猫の2階で眠る事になるだろう。


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