Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜

12 小さなラガーマン





――…助けて…!遼ちゃん……!!


 耳の奥にその響きを聞いたような気がして、遼太郎は弾かれたように立ち上った。キョロキョロと辺りを見回しながら、店の外にまで飛び出していく。

 遼太郎のその不自然な動きに、一緒にいた樫原や佐山は目を丸くした。同じくコーヒーショップのテーブルに同席していた彩恵も、驚いて遼太郎を目で追った。


 遼太郎は表に出て、往来を行き交う人の波に目を走らせたが、そこに見知った人の顔はなく、一抹の不安を残して息を吐いた。


――…あんなふうに俺を呼ぶのは、先生だけだ…。こんなところに、先生がいるはずないじゃないか……。


 そうやって自分に言い聞かせてみたが、『助けて』という響きに胸が騒ぐ。もしかすると、今どこかでみのりが窮地に立っていて、助けを求めているのかもしれない…。

 そう思うと、焦燥感で居ても立ってもいられなくなる。
 ……でも、今の自分には、それを確かめることさえできない。

 切なさが喉元にせり上がってきて、遼太郎はそれを抑え込むように拳を握り、歯を食いしばった。


 そんなふうに苦悩を漂わせる遼太郎の表情を、店の外まで追いかけて出てきた彩恵が、心配そうに見守る。
 自分といる時も、遼太郎が幾度となくこんな表情を見せることに、彩恵は気づいていた。


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