Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「…狩野くん。これから私のアパートに来ない?」
その提案に、遼太郎は息を呑んで固まってしまう。ただ、彩恵が掴んでいる袖口と、そこに掛かる毛先をカールさせた彩恵の長い髪を見つめた。
付き合っている者同士が、一つの部屋に入ってすることといえば、だいたいの想像はつく。
〝愛しい人〟を抱きしめて、キスをして、そして……。それは、かつて遼太郎が絶えず抱いていた願望だ。
それを今、彩恵は遼太郎に対して望んでいる。
付き合うことになった以上、当然こうなることは分かり切っていた。
彩恵のような女の子が、自分から誘うなんて、どれほどの勇気を振り絞っているのだろう。
ここで断ると、彩恵はますます不安を募らせる…と思えば、遼太郎は自分の中にある答えをなかなか口に出せなかった。
何か、彩恵の不安を軽くさせられる理由を、必死で探す。
「…ごめん。俺、これから大学まで戻って、図書館の本を返さなきゃいけないんだ。貸出期限今日までだから、返さないとペナルティ喰らうし。どっちにしろ、大学に自転車置いてるから…。」
遼太郎のコートの袖口を握る、彩恵の手の力が抜ける。
勇気を振り絞っているのに、こんなふうに断られて、彩恵はさすがにショックを隠せなかった。自分と一緒にいることは、図書館のペナルティよりも軽いことなのだから。