Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 彩恵の目にじわりと涙が滲んでくる。無理を言えば、優しい遼太郎は来てくれるかもしれない。でも、そうやって来てもらっても、今の空気を引きずって、きっと楽しくはない…。
 ましてや、深い関係になることなんて…。


「そっか…。じゃ、しょうがないね。」


 消え入りそうな彩恵の声。考えて断ったつもりだったが、彩恵を落胆させることには変わりなかった。


 遼太郎くらいの年頃の男だったなら、彼女のことを抱きたいと思うのは当然のことだ。
 それに、相手の女性に深い感情がなくとも、男はその行為をすることはできる。遼太郎の周りにも、恋愛感情は関係なく機会さえあれば、それがしたくてたまらない男はたくさんいた。

 そんな男だったら、彩恵の誘いにも、すんなりと乗ってしまうのかもしれない。
 いや、普通の男だったら、こんな可愛らしい彩恵から想いをかけられて、好きにならない者などいないだろう。

 遼太郎だって、みのりと出逢わずに彩恵と付き合っていたら、きっと素直に好きになっていたと思う。


 でも、遼太郎は知ってしまった。本当に心の底から人を好きになるのが、どういうことかを。
 今、彩恵が自分に抱いている感情とは、次元が違う深い深い想いを。


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