Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 彩恵は遼太郎にとって、『一番』ではない。
 ラグビーのコーチのことだって、真っ先に話をしたいと思い浮かべたのは、みのりだった。

 一旦、みのりのことが心に過ると、しばらくは他のことが考えられなくなる。
 あの夜だって、アパートに帰って彩恵にメールをしようと思っていた。ラグビーのコーチのことは絶好の話題だったのに、結局遼太郎は彩恵にメールをしなかった。

 彩恵の〝彼氏〟であるにもかかわらず、自分の不実さに気が付いて、遼太郎の心は痛んだ。


「……すぐに連絡しなかったのは、悪かったと思ってる。ごめん。」

「……狩野くんが来てくれると思って、いろいろ準備してたのに……。」


 それを聞くと、遼太郎はますますいたたまれなくなる。


「また、必ず時間を作るし。それに、茂森さんの行きたいところには、どこにだって付き合うから。」


 自分からデートに誘うような言い方だったが、今は、彩恵の気持ちをなだめるためには、こう言うしかない。
 すると、張りつめて泣き出しそうだった彩恵の表情も、少し緩む。気を取り直して長い髪を耳にかけ、ほのかに遼太郎に笑いかけた。


 こんな彩恵の笑顔を見ると、確かに可愛いんだろう…と、遼太郎だって思う。でもそこから、〝愛しい〟と思える感情が育っていかない……。
 遼太郎は、自分の中の複雑な心情を押し殺して、彩恵に微笑み返した。


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