Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
しかし、そんな気持ちに水を差したのは吉住だった。
「狩野くん…。君、彼女とかいないのか?」
「…え?!」
やぶからぼうな問いに、自分の中にあるモヤモヤとした悩みの種の存在を意識して、遼太郎は固まってしまった。
「いや、狩野くんが行ってくれるのは、本当にありがたいんだよ?平日だし年末だから、仕事が休めないコーチが多いのもあるけど、日程にばっちりクリスマスが入ってるだろ?みんな敬遠しちゃってるんだ…。」
クリスマス…。
吉住に言われるまで、遼太郎の思考にそのことはかすりもしなかった。
けれども、きっと彩恵は、二人で過ごすクリスマスの計画をあれこれ考えているに違いない。初めての彼氏が出来た初めてのクリスマスなのだから、それは当然だ。
遼太郎は、新谷コーチの姿勢のいい背中を見つめた。
…今更、断るわけにもいかない。他に合宿に行けるコーチも少ないとなれば、なおさらだ…。
遼太郎の中の悩みの種が、モヤモヤしたものからはっきりと形あるものに変化していく。
このことをどうやって彩恵に切り出せばいいか…。
そのことがずっと胸の中でわだかまって、遼太郎の頭上を覆う冬の日の雲のように、どんよりとした気持ちは、いつまでも晴れてくれなかった。