Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 恐怖にも似た意識に駆られ、心臓が激しく鼓動を打つばかりで、遼太郎の心も体も痺れて動かなくなってしまう。
 けれども、今ここでハッキリと拒否しておかないと、佐山から忠告されたように、本当に襲われてしまいそうだ。


 遼太郎は歯を食いしばり、道子の腕を掴むと、相手が女性だということも忘れ、力任せに自分の首から引き離した。
 道子はそうされて痛かったのだろう、少し顔をしかめて遼太郎を見上げた。


 そのまま、遼太郎はそこから逃げ出すこともできた。しかし、そうしてしまうと自分は、〝初体験〟に怖気づいた、ただの腰抜けになってしまう。


 遼太郎はそのまま道子の腕を引っぱって、このいかがわしい空間から抜け出した。大股で雑多な街を歩きながら、どこか…、二人きりにはならずに、落ち着いて話ができるところを探した。


「…どうしたのよ?あそこじゃ、気に入らなかった?」


 背後から道子がそう問いかけてきたけれど、遼太郎は振り向きもせずに、黙殺して歩き続ける。

 仲良く手を繋いで、楽しくおしゃべりしながら散歩する――。そんな、普通のカップルのデートで、普通に見られる光景などではなかった。

 それでも、道子は遼太郎に腕を引かれるがまま、黙って後について行った。
 温厚だと思っていた遼太郎の、思いがけない行動に驚きながら。そして、胸の奥にチカチカと光り始める不思議な感覚を覚えながら。


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