Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



『清正の井戸』は、遼太郎の当初の目的ではなかったが、陽菜の笑顔につられて思わず同意してしまっていた。


 明治神宮に参拝する前に参道を外れて、こんこんと清水の湧き出す井戸に向かってみたが、あの時の熱狂ぶりが嘘のように閑散としていた。
 陽菜はスマホを取り出して、井戸の写真を何枚か撮っていたが、遼太郎はそれが終わるのを傍らで眺めながら待っていた。


 それから、明治神宮の境内に入り、一通り型通りの参拝を済ます。
 陽菜が「大御心(おおみごころ)」を授かるための「くじ」を引き、それを開いてみている。そんな陽菜を横目で見ている遼太郎に、陽菜が不思議そうに声をかける。


「狩野さんは、引かないんですか?」


 そう尋ねられて、遼太郎は肩をすくめた。


「…あんまりそういうの、興味ないんだ。」


 興味がないというよりも、引きたくないというのが本音だった。

 おみくじを引いて、そこに「恋愛、実らず」だの「待ち人、来らず」などと書いてあることに、惑わされなくない。自分の運命を決定づけられたくない。


「自分のことは、神様の助言がなくても自分で決めるよ。なりたい自分になるために努力してるから、必ずそうなると思ってるし。」


 そう断言する遼太郎を、陽菜は意外に思ったらしく、目を丸くして見つめている。


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