Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「遼太郎はその点、全く手のかからない子で、お母さん、本当に助かったわ。」


 そう言われてしまうと、遼太郎も毒気を抜かれて返す言葉がなくなる。肩をすくめながら、飲み物を飲んで手にあったグラスをシンクへ持って行く。


「あ、遼太郎。今日は夕方からお墓参りでお寺に行くから、出かけないでよ。」


 台所を出て行くときに、母親から背中に向かって声をかけられた。


 それを聞いて、遼太郎は思い出す。みのりがお寺の娘だったことを。お盆ということもあり、みのりもきっと今頃は、実家であるお寺に帰省しているに違いない。

 この街にいないのに、バッタリ会えるなんてことも起こり得るはずがない。


 みのりの実家であるお寺がどこにあるのか、遼太郎は知らない。どんなところでどんなふうに育ったのかも知らない。

 こんなにも好きで好きで、愛しくてしょうがない人のことなのに、遼太郎は知らないことが多すぎた。
 みのりについて色んなことを知ることができないまま、別れてしまった。それほど、一緒にいられた時間が短すぎた。


 今、遼太郎が思い描くみのりは、その短い時間の記憶に頼った実体のないもので、本当のみのりとは違っているのかもしれない。


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