Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「……あ、私。次は講義が入っているんでした。もう行かなきゃ。…狩野さん、今日はアルバイト、ない日ですよね?」


 ゼミ室の大きなテーブルから、陽菜がそう言っておもむろに立ち上がる。


「…ん?」


 声をかけられたので、遼太郎はノートから目を上げないまま陽菜に答える。


「だったら、この後図書館に行きますか?」

「…うん。今日はまだ新聞読みに行ってないから。」

「じゃ、私も後で行くかもしれません。」

「…うん。」


 遼太郎の最後の生返事を聞いて、陽菜はニッコリと微笑む。その笑顔のまま遼太郎の横顔へ視線を投げかけると、バッグを抱えてゼミ室を出て行った。


 樫原と遼太郎が二人きりになっても、特段会話を交わすこともなく、遼太郎は勉強に没頭し静かな時間が流れていく。

 しかし、先ほどの遼太郎と陽菜のやり取りを黙って聞いていた樫原は、勉強どころではなく、その頭の中には、ずっと心に引っかかっていた疑惑がさらに色濃くなって渦巻いていた。


「……さて、ちょっとひと段落したから、図書館にでも行ってくるよ。」


 遼太郎がテーブルの上のものを片付けて、椅子から立ち上がって伸びをする。
 それから、陽菜と同じようにゼミ室を出て行こうとする遼太郎を、樫原はずっと目で追って、


「………狩野くん!!」


思わず遼太郎を呼びとめた。


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