Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 119番へ電話をかける遼太郎の緊迫した声を聞きながら、みのりはチラリと陽菜の様子を窺った。
 どうして陽菜がこんな行動をとってしまったのか……。それを深く洞察する余裕は、とても今のみのりにはなかった。


 陽菜はその場を立ち去ることもできず、玄関のドアの内側に立ちすくみ、その顔を青ざめさせている。
 みのりは陽菜に何か言葉をかけようとしたけれど、耐えがたい痛みと出血のせいか、意識が朦朧としてきていた。今は意識のあるうちに、動揺している遼太郎に適切な指示をしておいてあげなければならない。


「すぐ来てくれるそうです。」


 そう言いながら戻ってきた遼太郎は、ますます増えてくるみのりの出血の量に狼狽するばかりだ。


「……じゃ、遼ちゃんは服を着て。私の保険証はお財布に入ってるから、バッグごと持っていったらいいわ。アパートの鍵をかけて出るの、忘れないで。……それと、陽菜ちゃん。陽菜ちゃんも救急車に乗せて。彼女を一人にしないで。」


 遼太郎は、依然動けない陽菜をチラリと一瞥したが、みのりの指示に異を唱えることなく無言でうなずいた。

 手早く服を着て、部屋を出る準備をしている遼太郎に、みのりは力を振り絞ってか細い声をかける。


「……遼ちゃん。……私、もう力が入らなくなって……。代わりに傷口、押さえてくれる……?」


< 672 / 775 >

この作品をシェア

pagetop