Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 でも、もう遼太郎の心も体も、……その命も、手には入らない。そもそも遼太郎は手に入れるものではなく、誰のものでもない〝かけがえのない存在〟。

 それに気づいたとき、陽菜の頬に涙が伝った。これまでどんなに遼太郎に突き放されても、見せることのなかった陽菜の涙だった。


 遼太郎とみのりは同じ心を共有して、陽菜の涙を同じ眼差しで見つめた。ずっと離れ離れでいたはずなのに、こんなに想いを通わせてる二人の間に入り込めるわけがない。


「……分かりました。もう、終わりにします。だから、もう帰っていいですか……?」


 涙を手の甲で拭いながら、陽菜がか細い声を発する。陽菜からはなんの謝罪の言葉もなかったが、遼太郎もみのりも、それを不服に思って引き止めようとは思わなかった。

 みのりの心を代弁するように、遼太郎が静かにうなずく。
 すると陽菜は、どちらかがそうしてくれるのを待っていたかのように、なんの余韻も残さず、すぐに踵を返して病室を出ていった。


 遠ざかっていく陽菜の足音。
 二人は寄り添いながらホッと息をついたが、


「遼ちゃん!」


みのりがいきなりハッとして、遼太郎を見上げた。遼太郎は目を丸くして、みのりを見つめ返す。


「陽菜ちゃん、追いかけて!今すぐ!!」


 この期に及んで、そんなことを言い始めるみのりの意図を測りかねて、遼太郎は顔をしかめた。


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