Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
だけど、優しく微笑むみのりはそう言うばかりで、そこを動こうとしない。遼太郎は思わずみのりの笑顔に見とれてしまって、包丁を持ったまま動けなくなる。
「見てるだけだから、続けて。」
そう促されて、遼太郎はぎこちなく目の前のタマネギに向き直った。
こんな感覚は前にも経験したことがある。体の中に残る、懐かしくて甘酸っぱい感覚。
朝早い空気の中、誰もいない学校の渡り廊下で日本史の問題プリントに向かっていた時、側で見守ってくれていたみのり。見つめられてるだけなのに、ドキドキと胸が鼓動を打って、一瞬自分が何をするべきなのか分からなくなる。
だけど、その眼差しが次第に安心感へと変わる。みのりに見守られていると、日本史の問題でも、ラグビーの試合でも、なんでも上手くいくような気持ちになった。
そんな想いを噛みしめながら、遼太郎はタマネギを刻み始める。みのりに教えてもらったこの料理は、何度も練習を積み重ねていた。だから、今日は今までで一番おいしいものを作って、みのりに食べてもらいたかった。
みのりは、遼太郎の腕前を疑っているわけではなく、料理に集中する遼太郎を時間を忘れて見つめ続けた。
集中している時に唇を噛む癖。横顔から覗く優しい切れ長の目。凛としたその立ち姿。どれも、みのりのかつて知っていた遼太郎と変わらない。