Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
大きな溜息を、遼太郎は一つ吐いた。
本来ならば、東京での新生活に気持ちも浮き立っているはずなのに、それを思うと逆に遼太郎の心は沈んでくる。
遼太郎の足はまだここに踏みしめられていて、一歩も動けそうもなかった。東京へ発つには、ここから離れる原動力を心にため込む必要があった。
練習試合の日は、春の暖かさを存分に楽しめる好天に恵まれた。
第2グラウンドの入り口に植えられている桜が、ちらほらと咲き始めているのを見つけて、みのりはしばらく春の訪れを味わった。
桜が咲くと、年度が替わる。三月の終わりには澄子をはじめとする20名ほどの職員が離任し、この芳野を去る。 四月になれば新しい職員が着任して、新しい1年生が入ってくる。
少しの寂しさと、大きな期待感に満ちた春だけれど、今年の春はみのりにとって少し意味合いが違っていた。
「宇津木―…」
新しいスタンドオフを呼ぶ遼太郎の声が、みのりの耳に届いてきた。
いつものように、試合前の練習をする光景がみのりの前に広がる。
芳野の選手たちと、試合相手の選手たち。
県外ナンバーの大型バスがグラウンドの前に横付けされていたので、他県からはるばる遠征にやってきた選手たちだ。