ぼくのことだけ見てなよ
美島の指が、わたしの頬に触れる…。やっぱり、イヤじゃない。

「椿姫は、ぼくのこと。どう思ってる?」
「どう、って……」
「キライ…?」
「……では、ない」
「……じゃあ、好きでもない。ってことだよね…?」
「……ごめん」

美島のこと、キライじゃない。むしろ、好きなほうだと思う。でも、前に一歩…。この一歩が、踏み出せないんだ。

美島のこと、傷付けた。ゼッタイ、傷付けたって思ったのに。美島からの言葉は、意外なものだった。

「どうして、謝るの?」
「え…どうして、って……」
「だって、ぼくのことキライではないんでしょ?」
「そう、だけど……」
「なら、まだ望みはあるでしょ?」
「……望み、って」
「ないの?」
「わ、わかんないよっ。そんなの!」

急にそんなこと言われたって、わかるわけないじゃないっ。望みとか、そんなこと言われたって…。

「それでいいよ」
「え…?」
「椿姫は椿姫のままでいい。ただ、ぼくのことは好きになってもらうけどね」
「は…?なに、それ…。そんな自信どっから、」
「こんな完璧なオトコ、どこにもいないでしょ?」
「………」

出たよ、美島楓様。到来しちゃったよ…。自分で自分のこと〝完璧〟って言っちゃうんだもんねぇ…。

「でも。ぼくに興味ない子を、ぼくのものにするのは初めてだから、努力はするけどねぇ」
「………」
「なに、その目は。ぼくだって、努力って言葉くらい知ってますぅ」

なんだ、そのカワイイ言い方は…。さっきまで俺様な美島だったのに、急に〝努力〟とか言っちゃってさ。

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