ぼくのことだけ見てなよ
「どうして?同じ目に遭わせてやればいいのに。ぼくがやってきてあげるよ」
「だ、ダメだってば!!」

立ち上がる美島を必死に腕を掴み止めた。美島なら、やりかねない。きっと、なんのためらいもなく…。

「け、結構痛いんだよ!」
「そんなの傷口見たら、わかるよ」
「じゃあ…!」
「許せるワケないでしょ?好きなオンナも守れなかったんだから、ぼくは」
「えっ……」

い、今…好きって、言った…?言った、よね…?えっ?じゃあ、あのキスは同情とかじゃなくて……

「ごめんね、椿姫。ぼくがあの時、キスしたから…。ぼくのせいだね」
「…っ、そ、それは。……わたしが勝手に逃げ出しただけだから。わたしの自業自得だよ…」
「ううん。ぼくがちゃんと椿姫追いかけて、言えばよかった。あの続きを」
「つ、づき…?」
「うん、そう。ぼく、椿姫の名前呼んだでしょ?」
「…あ」

そうだ。キスされて、逃げ出す直前〝椿姫っ、〟って、美島はなにかを言いかけた。それを、わたしは振り切って逃げ出したんだ。

「順序逆だよね。ちゃんと告白するつもりだったのに、椿姫の目見てたらカラダが勝手に動いてて…。まだ、間に合うかな?」
「………」
「椿姫のことが、好きだよ」
「み、しま……」

さっきまで冷たい目をしていたのに、今はそんな面影もなく…。わたしは、どうしたらいいんだろう。

「ココ、触れてもいいかな…?」
「えっ…?頬っぺた?」
「うん。椿姫に触れたいんだ」
「う、うん……」
「……ありがと」

よくわからないけど、美島はわたしに〝ありがと〟と言った。でも美島に触られるのはイヤじゃないから…。

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