あの日のきみを今も憶えている
「キス⁉」


けっこう最初の方で、穂積くんが大きな声を上げた。


「マジで⁉ ヒィちゃん、されたの?」


がしっと肩を掴まれて、顔を覗き込まれてびっくりする。


「いや、私であって私じゃなくて……。それに、してない」

「あ……よかった。そっか」


ホッと息をついた穂積くんがぎこちなく笑った。


「あの、話の重点はそこじゃないんだよね、穂積くん。
どうして園田くんがそういうことしたのかってところが大事で」

「いや、そこも大事だろ!」


きっぱりと言って、それから穂積くんはふっと口を噤んだ。

少しだけ考え込むように視線を彷徨わせて、それから私を見た。
手を伸ばし、頬に触れてくる。
穂積くんの手のひらが私の左頬を包んだ。
しかし、それも一瞬のことでぱっと離れた。


「な、なに? 穂積くん」


意味不明。
穂積くんは、私の頬に触れた手を確認するように何度かグーパーを繰り返して、「うん」と言った。


「……まあ、杏里の気持ちがわからない、とはいえないや。わかるわ、俺」

「どういうこと?」


私の頬に触れて、何が分かるっていうんだ。
眉根をきゅっと寄せると、穂積くんは少し笑った。


「触れるって、大切なんだってこと。やっと好きな子に触れられると思ったら、そうしたくなるよ。外見なんて、関係ないかもしれない」

「それは、園田くんも同じようなこと言ってた。あと、キスしたら、奇跡が起きるんじゃないかって……」

「奇跡、な。うん、願っちゃうよな。だって、もう既に起きてるんだもん。もう一回くらいって、思うよ」

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