あの日のきみを今も憶えている
「園田くんね、そういう奇跡とかを考える自分を欲張りだっていうんだ。でもそれは、欲張りなんて感情じゃないよね」

「ああ、それはもちろんだ」


好きな人を想う心を、誰が欲張りだと責めるだろう。
もっと傍にいたいというのは『欲』なんかではなくて、『願い』だ。
それはとても、純粋な願い。
キラキラした、綺麗なものだ。


「そのあとね。美月ちゃんが、いつまでこうしていられるのかって話をしたんだ……」

「……ああ。それか」


穂積くんが、ふうとため息をついた。


「まあ、いずれは辿り着く問題だよね。だって、美月ちゃんは、幻のお姫さまになっちゃったから」


あえて『死』という単語を使わない穂積くんの優しさは、今の私の胸に滲みた。


「うん……。ホントだね、幻のお姫さまだ」

「これが童話の世界ならよかったのにな。そしたらみんなに愛されたお姫さまは必ず生き返って、王子さまと幸せになれるのに」

「うん……」


ああ、ダメだ。涙が出てしまう。
私の涙腺、壊れてしまってる。
簡単に、バルブが緩むんだ。


「でも、これが現実なんだもんね。お姫様は誰にも見えないし、声も聞こえない。王子様にも見えなくて、そして、生き返るなんて魔法は起きないんだよ。私はここが現実だって知ってる」


こんな残酷な童話があるわけない。
ここはどうしようもない、現実だ。

ず、と鼻水を啜ると、ポン、と頭に手がのった。
横に座る穂積くんが、ゆっくりと私の頭を撫で始める。


「ヒィちゃんは、辛いよなあ。二人の擦れ違いを、一人で目の当たりにしてるんだもんな」

「私は、いいんだ。ただせめて、私の目も耳も、園田くんにあげられたらよかったのにって、思う……」


視覚も、聴覚も、あげる。
そうしたら、少しくらい、二人の距離を縮めることが出来るよね。
さっきみたいな擦れ違いだけは、避けられるよね。

ああ。
だから、何度だって、思う。
美月ちゃんが見えるのが、私じゃなくて園田くんだったら。
声を聞けるのが、園田くんだったら。


どうして、私なの。


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