溺愛ドクターは恋情を止められない
師長にそう言われたのは、母親だろうか。
まだ二十代前半に見え、露出の多い服装に派手な化粧。
五歳の子の母親には見えない。
「あ、これ、保険証」
その人は、落ち着き払った様子で受付まで来て、バッグから保険証を出した。
その様子に、違和感があった。
子供がケガをして運ばれることはよくある。
けれど普通は、母親は動転してしまっていて、保険証の心配なんて、一通りの治療が終えた後でなければという人がほとんどなのに。
「お母様ですか?」
「そうだけど」
「こちらに、お子様の名前と生年月日。その他必要事項を記入してください」
もうカルテはできているけれど、もっと細かな情報が必要だった。
そして、まったく処置室を気にする様子もない母親は、ゆったりと椅子に座って、それを書き始めた。