溺愛ドクターは恋情を止められない
部屋に戻っても、先生の姿が見えない。
不思議に思い辺りを見渡すと、一瞬、頬を冷たい風が駆け抜けた。
窓が開いているんだ。
壁で陰になって見えなかったけれど、彼はベランダにいた。
柔らかい月の光に照らされながら、静かに目を閉じている彼に思わず見惚れてしまう。
"美しい"という言葉が最もふさわしいだろう。
男の人に対して、美しいというのはおかしいかもしれないけれど、他に言葉が見つからない。
私もそっと近づいて、夜空を見上げると……。
「あっ……満月」
「あぁ」
深く息を吸い込むと、ほんのり冷えた空気が、肺の隅々まで染み渡る。
「なぁ、松浦」
目を開いた彼は静かに口を開いた。
「俺達は所詮無力なんだよ。誰も死なさない位の気持ちで医者になったのに、全部の命を救うなんてできないんだ」