あの日の雪を溶かすように
葵のその言葉で、最初アリスは、何ドラマみたいなこと言ってんだよ、と
鼻で笑ったが、
直後に涙が勢いよく込み上げてきた。

同時にアリスは素早く電話を切った。

葵には悪いけど、聞かれたくはなかったのだ。

そのまま受話器を置き、アリスは自分の口元を両手で覆うと、
カベに寄りかかるようにして背をつけた。

それから天井を見上げて、
ゆっくりとずり下がるように尻餅をついた


そして、静かに、泣いた。


今まで我慢してきたものを、いっぺんに出すように。

苦しいくらいに涙は止まらない。

でも、なぜだろう。

ずっとこれを求めていたような、そんな気が、彼女にはしていた。

今回の涙の理由を探すのに、そう長く時間はかからないであろう。
アリス自身も、ちゃんとわかっていたから。



        葵の声は、今のアリスには、少しだけ、暖かすぎた。


< 66 / 313 >

この作品をシェア

pagetop