好きで、言えなくて。でも、好きで。
「…………………。」


「…………………。」



棟郷に連れられて、威叉奈はとあるバーにいた。


相談があると言ったにも関わらず、棟郷は一向に切り出さず来店してから一時間はとうに過ぎている。



「…………同じもの。」



「…吹蜂、ペースが早くみえるが、大丈夫か?」


「別に平気です。」



いくら飲んでも酔う気配がなく、水を飲むかのように渇く喉を潤おしていた。



「……それで、相談なんだが……」



ゴンッ



「吹蜂!?おい、大丈夫………ではないな。」



ようやく切り出そうとした矢先に隣で大きな音がしたと思ったら、威叉奈がカウンターの机におでこを強打したようでうつ伏せのまま微動だにしない。


慌てて揺すってみるが反応はなく、微かに寝息が聞こえてきて単に酔い潰れただけのようだ。



「確か、こっちだったな。」



威叉奈を背負い、棟郷は緊張で固まった全身を解すようにゆっくりと歩きながら思い出す。



合同捜査で、暴力団相手でも殴っての地取りが強引だったとして、謹慎を言い渡した時のことを。


自宅謹慎だからと、住所を確認しておいたのが役に立った。
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