カタブツ上司に迫られまして。
棚からグラスを二つ取り、それから冷蔵庫から麦茶の入ったガラスポットを取り出すと、課長は振り返った。

「そのままの意味だろ。昔からお前は淡々と仕事もこなすから、誰かに手伝ってもらった事はないだろ」

そう言って、課長はそのまま居間に向かった。

……まあ、当たっているかな。

新人の頃は事務処理やコピーばかりやらされていたし、そうした書類を眺めているうちに、勝手に“どう処理をしていく”のかを把握していた。

把握していた事を、今度は教えられる段階で理解して、それを実戦していくだけの事で……。

頭で理解しているのと実際では、少し勝手は違ったけれど、対処を間違わなければ問題にもならなかったし。

幸いにも、問題になるほどのミスはしたことがないから、先輩たちに助言を求める事も少なかった。

とりあえず、ご飯が炊けたからお茶碗に盛って、テレビをつけた課長の前に置いてから、目の前に座る。

「適当に作りましたよ」

「ん。サンキュ……月曜日はお袋、決まって出掛けるから」

あ。そうなんだ。

「近所のおばさん連中と、フラダンス習っているんだと。だから、月曜の夜はこんな感じになる」

「ああ。じゃあ、毎週なんですね」

お母さんのバイタリティはやっぱりすごいなぁ。

習い事とか、私はあまりする気にならないと言うか。

「お前にも合鍵作っとかねぇとならねぇな。同時に退社出来れば問題ないが」

「え。一緒に帰るとか、そういうおかしな事を考えていたんですか?」

課長はニコリと微笑むと、グラスに麦茶を注いで私の前に置いてくれた。

「残業させれば一緒に帰れるな」

「そんな理由で残業したくないです」

「そんな理由で残業させる馬鹿がどこにいんだよ」

冷たく言われて、少しホッとする。

そんな意味不明な理由で仕事はしたくないよね。

だいたい課長と一緒に帰るとか、そんな学生デートみたいなノリは何だか想像もつかないって。
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