カタブツ上司に迫られまして。
「ふ、ふざけないでください! 部長からお見合い話なんて美味しい話、どうして蹴っちゃうんですか!」

フキンを握りしめて叫ぶと、課長の顔がめちゃくちゃ複雑そうになった。

「どこが美味しい話なのかわかんねーよ」

「部長から持ちかけられたお見合いって事は、部長の縁絡み確定じゃないですかっ! 結婚したら、部長と縁続きになったかも知れないじゃないですか!」

「あのおっさんと縁続きになるとか勘弁してくれよ」

「でも、部長と縁続きになったら、会社で優位になれません?」

いった瞬間に、デコピンが飛んできた。

「いつの時代の話だよ。それにお前、定年間近に部長職だぞ、会社で何の優位に立てるっつーんだ。しかも、俺はそんなもんで身を立てるつもりはねえ!」

そこまで怒ったように言われて、痛む額を押さえながら涙目になったら、微かに課長がたじろいだ。

「……そんなに痛かったか?」

「し、失礼な事を言いました」

「うん。まぁな。かなり失礼な事を言われたかな」

「だって……なんだか、最近はいろんな事がありすぎて」

ぽそぽそと呟いて俯いたら、ぽとぽとと涙がこぼれてきた。

大変だった出張が終わって帰ってきたら、家が火事になっていて、課長にご迷惑かけてしまっていて。

早く新しい部屋を探そうと思っても、あまりいい部屋はないし。

しかも、保険のほとんどは部屋の修復代にまわるらしいから、ほとんど入ってこないし。

貯金はあるようでないし。

お母さんは、課長を婿にどうだとか言うし。

加代子には、お金貯まるまで課長の世話になっとけみたいな黒いこと言うし。

課長はいきなり笹井由貴にならないかとか言うし。

「ああ……お前は弱音を吐くのも下手だな」

ふわりと暖かい温もりに包まれて、瞬きした。

気がつけば課長は傍らにいて、気がつけば抱きしめられていた。

「か……ちょう?」

「課長は却下。とりあえず落ち着け」

頭を肩に寄せられて、何だかその暖かさに安心した。
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