カタブツ上司に迫られまして。
「ご、ごめんなさい」

さすがに目を丸くして固まった課長と、慌てる私。

キッチンからフキンを持ってきて、吹き零れたお味噌汁を拭き取る。

被害は最小限だったみたい。良かった……。

いいや、良くない。

今、何を言われたんだ、私は。

真面目な顔で課長を見ると、課長はお箸を握りしめて笑いを堪えている。

堪えながら声もなく笑って、少しだけ涙目になっている。

「か、課長?」

「課長は却下だって言ったろ。慣れねぇのは解るけど」

苦笑しながら返事が返ってきて、眉を困らせた。

慣れないって言うか。私が課長を祐さんとか呼んだら、色々と問題があると思うんだ。

いや、今は呼び方より、もっと問題のある発言を聞いたような気もするし。

「いきなりなんですか。笹井由貴って言うのは」

「それはお前、そのままの意味合いだろう。鈍いな」

鈍いも何も、いきなり過ぎて話についていけない。

だいたい、私と貴方は部下と上司の関係で、しかも、つい最近までご近所さんであることすら知らなかったような間柄なんだけど。

それが何を、どう思い付いて“笹井由貴にならないか”につながって行くのか検討もつかないと言うか。

じっと眺めていたら、課長は小さく苦笑して、それから麦茶を飲んだ。

「今日、部長にそろそろ身を固めろって言われてな」

「そう……なんですか?」

それで、帰りに課長は部長と一緒にいたのか。

「まぁ、特定の恋人もいないなら、見合いでもするかって勧められたんだが……断った」

ニヤニヤと言われながら眺められ、居心地が悪くなって来た。

思わず正座をして、ちらっと課長を見上げると、課長は頬杖をついて私を見ている。

「あのぅ……」

「気になる女性がいるんで、口説くつもりですって、断った」

「……はい?」

ニヤニヤ笑いのまま、黙って私の事を眺めている課長。

テレビから、芸人さんの情けない悲鳴が聞こえた。
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