カタブツ上司に迫られまして。
「まぁまぁ、祐も。これも何かの縁なのだし、彼女をここにしばらくお預かりしましょう」

和やかなお母さんの言葉は、一瞬、耳を通り抜けて行った。
通り抜けて、それから返って……

「はぁ!?」

「ええっ!?」

課長と同時に叫んで、お互いに勢いよく立ち上がった。

「無理だろう! 部下だぞ、部下! しかも女だぞ! 野郎ならいざ知らず、女子社員と同居なんて不味いどころの話じゃねえだろ」

「あら。祐は鳴海さんに手を出す気なの? 私がいるのに、果敢ねぇ」

「そういう問題じゃねえ!」

のほほんと言っているお母さんの言葉が、頭に入ってこない。
いや、拒否している。
だけど、お母さんはニコニコと続けている。

「会社にバレたらお嫁にもらっちゃえばいいのよ。胸が大きくて、お尻もきゅっと上がっていて、大人しそうな女性は祐の好みでしょう?」

「ちょっと待て。それじゃ俺は変態じゃねえか。しかもこれが大人しい女なわけがねぇだろ。しっかり自己主張すんぞ?」

「あら。女からすると、男は皆変態じゃない。それに貴方に負けないくらい気が強いなら、ますます良いわ」

ああ、どうしよう。何だかたくさん失礼な事を言われている気もするし、何だかよく解らない親子喧嘩が始まった。
どうにかしないと、どうにか……!

「あの……!」

勇気を持って叫んだら、二人はおとなしくなった。そして同時に振り返られた。

「落ち着きましたので! 帰ります」

「どこにだよ」

やたら冷静になった課長の言葉に首を傾げる。

どこにでしょう? 私も言っていて解りませんが。

「とりあえず、出張疲れたので、お風呂入れるホテルを捜します。世の中は便利ですから」

「お疲れさん。まぁ……」

課長は疲れたように脱力して、それからドサリと座るとあぐらをかいた。
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