カタブツ上司に迫られまして。
そうか。課長は夏川さんと付き合っていたんだ。

夏川さん……可愛いもんね。

私より年上だけど、可愛い。

ちなみに胸も大きいし、スレンダーだわ。

のんびりしているようでいて仕事は早いし、機転も効くし、夏川さんの場合は愛想笑いじゃなくて、いつもニコニコしているし。

だいたいの男が、選ぶような優しい包容力もあるし……。

私なんて、仕事がそこそこ出来るだけで、付き合う男の人からは“可愛くない”とも言われるような……真逆な人間じゃないか。

真逆な人間に、どうして課長は“好きだ”なんて言ったんだろう。

なんでだろう。どうしてだろう。

そんなことを考えながらこなしていた仕事がスムーズに行くはずもなく。

いつもより、ちょっと遅くに終わって会社を出た。

……これから行ったら、お母さんの病院のお見舞い時間には間に合わないかな。

スマホの時計を見ながら溜め息をついて、駅までの道のりをゆっくりと歩く。

お母さん、怒りはしないと思うけれど……と、考えていたら後ろから声をかけられた。

「鳴海ちゃん。今帰り?」

振り返ると、スーツ姿の原本さんがにこやかに手を振っている。

「あれ。会議はないんですか?」

「俺は他でも残業してて、医務室の女医さんにつめたーく残業禁止令が出されちゃった」

じゃあ、今日は課長も早いのかな?
考えていたら、原本さんがにんまりしながら首を振る。

「笹井は残業。しわ寄せが来てる感じかなぁ」

「……聞いてませんよ」

ちらっと見ると、原本さんは軽く肩をすくめて隣りに来た。

「暇ならご飯付き合わない?」

「暇ではありません。ご飯作らないと……」

「笹井を呼べば問題ないでしょ。にしても偉いねぇ。彼氏でもない男のご飯作ってるんだ?」

「え……?」

「上野君から聞いた。火事にあって、笹井の“実家”に住んでいるんでしょう? 皆、笹井は個人で住んでいると思い込んでいるのがウケるけど」

え、えー……。

にっこりと笑う原本さんに、少しだけ冷や汗が出た。

侮ると怖い。課長の同期……。





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