カタブツ上司に迫られまして。
「もう。何なんですか。そんな情けない……」

「次の日には真面目な顔で出社してきて真面目に仕事してるし、面白いやつだなぁと、ずっと思っていたぞ」

笑い続ける課長をちらっと見て、両手で顔を隠した。

「面白がられても……」

それって、絶対にダメな姿だよね。

酔っぱらって、絡んで、寝ちゃうのもダメな女の代表格じゃないの。

「いやぁ。だからな。男が女に求める可愛さって、何も見た目とか性格じゃねーよ」

からからと言うから固まった。

「……何か、私は言いましたか」

「言ってたじゃねえか。夏川と自分比べて可愛くないとか」

うわー……。どうしよう。そんな事を聞かれていたのか。

だってさ。だって……。

「お前は自分の行動も解ってねぇんだろうな」

顔を上げると、頬杖をついてニヤニヤしている課長と視線があった。

「何がですか?」

「いや? まぁ、いいけど。そろそろ寝るか」

立ち上がる課長を見上げて、ぼんやりした。

「下げるぞ?」

「あ。はい……」

課長は私の分のグラスも持ってキッチンに向かう。

それを見送ってからテーブルに頭をのせて目を瞑った。

なんだか、色んな事がありすぎて、頭のなかで整理整頓が出来ないな。

ここ数週間で、いったいいくつビックリすることがあっただろう。

キッチンではしばらく水道水が流れる音がして、それが終わると棚にグラスを片付ける音が聞こえる。

それから、課長の足音が通り過ぎ、カラカラとサッシが閉まる音。

人の生活する音ってどこか安心する。

「おいこら。ここで寝んじゃねぇよ」

「だって、居心地いいんですもん」

課長の足音が近づいてきて、目を開けるとしゃがみこんだ姿が見えた。
< 73 / 80 >

この作品をシェア

pagetop