カタブツ上司に迫られまして。
「俺も居心地いいぞ。構うと面白い女が近くにいて、飯もうまいし」

課長は私を面白いって思っているんだな。

ぼんやりしつつ、溜め息をついた。

「……それが笹井由貴になれに繋がったの?」

「大まかには。ただ、そうだなぁ」

課長は天井を見上げて、それからさらさらと私の髪を指に巻き付ける。

「薄着で暗い中、縁側で寛いで足パタパタさせてるお前を見てたら、この家に似合うなと思ったし……」

思ったし……?

「一番はアレだな」

むくりと起き上がって、どこか自嘲気味に笑う課長を見つめた。

「泣きながら飛び込んできたお前を初めて受け止めた時……自分のものにしたいと思った……かな?」

おどけるようにそう言って、髪からするすると指を外して立ち上がる。

「だからって、一方的な片思いでモノにしたいと思う程“とりあえず”でって訳でもねえし。俺としてはお前次第だな」

「私……次第なの?」

「そうだな」

それだけ言って、課長は廊下に出ると振り返った。

「寝ぼけた頭で考えたって仕方がねぇぞ。とりあえず、部屋戻れ」

……課長はそうやって、曖昧にするんだな。

でも、私も曖昧にしているんだけど。

立ち上がって、居間の電気を消すと、縁側から漏れてきた明かりで課長のシルエットが見える。

それを見ながら、気がついた。

課長は面白がっているけれど、真剣に考えてくれているらしいよね。

真剣じゃなければ、普通はそんな事を言わないだろうし。

……だけれど、私が曖昧にしているから、課長も曖昧にしてくれているのかも。

それは優しさなのかも知れないけれど……。

課長の優しさって、とてもとても解り難い。
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