カタブツ上司に迫られまして。
「お前女子としては終わってんなー」

妖しい笑みは跡形もなく消えて、代わりに呆れたようにポリポリと頭をかく課長を見ながら、ポカンと口を開ける。

終わっている?

「どういう意味ですか! 単に課長には始まってないだけです!」

「そうかそうか」

そうですよ。全く興味ありませんよ?

恐らくありません。

確かに少しギャップ萌えするけれど、だからってねぇ?

課長はあくまで課長だし。それが変わるとも思えないし。

でも、この体勢は……ちょっと、いけないんじゃないかなぁ、とか思ったりする。

それ以上課長は何も言わずに手を離して、上から避けてくれたから、起き上がって乱れたブラウスを直した。

「とりあえず、ちゃんと起きてくださいね!」

立ち上がり、慌てて課長の部屋からでるとお母さんのいるキッチンに向かった。

「おかえりなさい。祐は起きた?」

お味噌汁の味見をしていたお母さんが、振り返って目を丸くする。

「あらあらあら。顔が真っ赤よ、鳴海さん」

「え。そ、そんな事はありません。今日も暑いですよね」

「そうねぇ。夏ねぇ」

お母さんを手伝い、出来たものから居間に運んでお箸を並べていると、ワイシャツの袖ボタンを留めながら課長が入ってきた。

「鳴海。今日は休め」

「はい?」

なんでですか?

「昨日の今日で落ち着かねぇだろうし、そもそも、最低限の私服くらいは買いたいだろ?」

そう言って、私のスーツ姿を眺める。

確かに、私服はないけれど……

「お心遣いは、ありがたいですけれど……出張報告があります」

「そんなものは月曜で間に合う。部長にも、まぁ、俺から報告しておくから」

軽く言って、席についた。
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