【短編】君ノ記憶
「ほう…少しは弁が立つようだな」
そう言いながらニヤリと笑みを浮かべた。
「おぉーう?気っ持ち悪い、薄桜が笑ってやがる」
不意に頭上から声が降ってきた。
思わずきょろきょろと火影が辺りを見回すのに対し、薄桜はため息をついて腕を組んでいる。
「深紅…貴様は普通に出て来ることができないのか」
薄桜がそう言うと、ビュンっという風を切る音と共に男が現れた。
「きゃあっ!」
「よう薄桜。この嬢ちゃんどうしたんだ?」
身軽に空から舞い降りた男は、鈍い光沢を放つ銃をくるくると弄びながら尋ねた。
「拐った」
「拐ったぁ?」
冗談だろ、と言わんばかりに男が目を吊り上げる。
「夏焼 火影と申します。とっ、東国の城から秋篠様に拐って頂きました」
慌てて返事をする火影を目を丸くして見つめる男。
「お、おう…俺は冬高 深紅だ」
「冬高様、ですね!よろしくお願い致します!」
「なぁ嬢ちゃ…火影ちゃんだっけ?何でそんなニコニコしてんだよ」
火影は深紅の質問に首を傾げた。
「何で、とは?」
「はぁ?」
深紅は信じられないという顔で薄桜を見た。
「…何だ」
「お前、こんな馬鹿が趣味だったのか?そりゃ今まで女の陰も見かけないわけだ」
今度は火影が頬を膨らませて深紅を見つめる。
「私は物知らずではありますが、教養は積んできたつもりですわ」
深紅は改めて火影を観察した。
確かに賢そうな瞳をしてはいるが、解せない。
「火影ちゃんさ、状況分かってんの?普通…挨拶してくるかぁ?」
「秋篠様のお屋敷にお邪魔しているのです、せめてご友人に失礼の無いようにしなくてはなりませんわ。秋篠様に恥をかかせてしまいますもの」
「いやまぁその心がけは素晴らしいと思うぜ?けどよ、拐われたんだぞ?あんた。分かってる?親とか心配するって思わねぇのか?」
火影の着ている着物は薄手とはいえ上質な布だ。
発色も良く、色彩が豊富で美しい。
質が良い布独特の光沢も出ている。
これは相当な金持ちでない限りは手が出ない代物だ。
着物を観察してから深紅は視線を火影の顔に向け───表情を凍らせた。
「両親は心配などいたしません」
驚くほど冷たい目をして、驚くほど─暗い笑みを浮かべている。
「何、だ…?」
背筋に悪寒が走り、冷や汗が出る。
「分かっただろう。この女は普通の女ではない」
薄桜はハッ、と鼻で笑うと今度こそ屋敷へ歩き出した。
深紅は火影から目を逸らせない。
火影も逸らそうとしないのだから、見つめ合ったまま硬直状態だ。
「…おい。何をしている貴様。この俺を待たせる気か」
紅い瞳が火影を捉えた。
「すみませんっ!」
次の瞬間、元に戻っていた。
「では失礼いたします」
ぺこりと深紅に頭を下げて薄桜の後を追う。
その後ろ姿を見ながら、驚きで身体が動かせない深紅だった。
そう言いながらニヤリと笑みを浮かべた。
「おぉーう?気っ持ち悪い、薄桜が笑ってやがる」
不意に頭上から声が降ってきた。
思わずきょろきょろと火影が辺りを見回すのに対し、薄桜はため息をついて腕を組んでいる。
「深紅…貴様は普通に出て来ることができないのか」
薄桜がそう言うと、ビュンっという風を切る音と共に男が現れた。
「きゃあっ!」
「よう薄桜。この嬢ちゃんどうしたんだ?」
身軽に空から舞い降りた男は、鈍い光沢を放つ銃をくるくると弄びながら尋ねた。
「拐った」
「拐ったぁ?」
冗談だろ、と言わんばかりに男が目を吊り上げる。
「夏焼 火影と申します。とっ、東国の城から秋篠様に拐って頂きました」
慌てて返事をする火影を目を丸くして見つめる男。
「お、おう…俺は冬高 深紅だ」
「冬高様、ですね!よろしくお願い致します!」
「なぁ嬢ちゃ…火影ちゃんだっけ?何でそんなニコニコしてんだよ」
火影は深紅の質問に首を傾げた。
「何で、とは?」
「はぁ?」
深紅は信じられないという顔で薄桜を見た。
「…何だ」
「お前、こんな馬鹿が趣味だったのか?そりゃ今まで女の陰も見かけないわけだ」
今度は火影が頬を膨らませて深紅を見つめる。
「私は物知らずではありますが、教養は積んできたつもりですわ」
深紅は改めて火影を観察した。
確かに賢そうな瞳をしてはいるが、解せない。
「火影ちゃんさ、状況分かってんの?普通…挨拶してくるかぁ?」
「秋篠様のお屋敷にお邪魔しているのです、せめてご友人に失礼の無いようにしなくてはなりませんわ。秋篠様に恥をかかせてしまいますもの」
「いやまぁその心がけは素晴らしいと思うぜ?けどよ、拐われたんだぞ?あんた。分かってる?親とか心配するって思わねぇのか?」
火影の着ている着物は薄手とはいえ上質な布だ。
発色も良く、色彩が豊富で美しい。
質が良い布独特の光沢も出ている。
これは相当な金持ちでない限りは手が出ない代物だ。
着物を観察してから深紅は視線を火影の顔に向け───表情を凍らせた。
「両親は心配などいたしません」
驚くほど冷たい目をして、驚くほど─暗い笑みを浮かべている。
「何、だ…?」
背筋に悪寒が走り、冷や汗が出る。
「分かっただろう。この女は普通の女ではない」
薄桜はハッ、と鼻で笑うと今度こそ屋敷へ歩き出した。
深紅は火影から目を逸らせない。
火影も逸らそうとしないのだから、見つめ合ったまま硬直状態だ。
「…おい。何をしている貴様。この俺を待たせる気か」
紅い瞳が火影を捉えた。
「すみませんっ!」
次の瞬間、元に戻っていた。
「では失礼いたします」
ぺこりと深紅に頭を下げて薄桜の後を追う。
その後ろ姿を見ながら、驚きで身体が動かせない深紅だった。