ラブエンゲージと甘い嘘
「お客さんたち〜結局行き先はどこなの?」

見かねたタクシーの運転手さんが声をかけてくれる。

「……です」

「……方面ですけど」

お互いの声が重なる。そして同時に顔を見合わせた。

「だったら、一緒に乗っていきな。決まり」

嬉しそうに親指を立ててニカッと笑う運転手さんに促されて、私たちはなぜか同じタクシーで目的地に向かうことになった。

「……ったく、どうして俺がこんなやつと」

私だって同じこと思ってるよ。窓の外の景色を眺めながら心の中で毒づく。

高潔だなんて、一瞬でも思った私が馬鹿だった。

「だいたいどうせ、デートかなんかくだらない予定だろ? 俺はこれから仕事だっていうのに」

「くだらないって……私にとっては大事な用事なんです。それに仕事だったら遅れないようにきちんと計画を立てるのも社会人としても常識だと思います。困っているみたいだから、同乗OKしたのに」

言われっぱなしじゃ悔しいから、少しだけ言い返す。しかし私の言葉なんて聞いていないようだ。

「結構言うな。成り行きとはいえ知らない男とタクシーに流されて乗るくらいだから、男にすぐに騙されそうだと思ってたんだけど、へ〜人は見かけによらないもんだな」

確かに見かけは背も小さく童顔の私は、そういう風に見られるのかもしれない。それにすぐに人に同情しやすいし付け込まれやすいと言うのはあながち間違いではない。

……いわゆるお人よしなのだ。
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