深愛なる君へ、この愛を捧げます。




「…し、失礼しまーす…」




理人がいるわけじゃないのに、つい緊張して言ってしまった。




理人の部屋に入るのは何年振りになるのか分からない。
理人の部屋の掃除はいつもお義父さんがやっていたから。




思い返せば、日海がお腹にいる前からここに入ってないかもしれない。




机の上やタンスの上を雑巾で拭きながら、理人の部屋を見回す。




理人の部屋は必要最低限の家具しかないシンプルな部屋だけど、机やタンスの上には写真立てがたくさん並んでいて、それがシンプルな部屋を彩っている。




写真を見ていくとそこには、理人とお義母さん、お義父さんの3ショットもあれば、理人が友達と写っている写真もある。
それでもこれらの写真立てに一番多く写っている人物は、一目で分かった。




「…ちょっと、私の写真ばっかりじゃない」




理人と一緒に写っている写真もあれば、大きくなった自分のお腹を撫でる姿、いつの間にか撮られていた私の寝顔の写真まである。




写真好きな理人にここまで自分が撮られているとは知らなかった。




これをいつも掃除しているお義父さんに見られていたのかと恥ずかしさと、愛されているという実感が込みあげてきた。




それと同時にここに写る笑顔の理人がいないという虚無感が私に襲いかかる。





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