あのね、先生。-番外編-
泊まったことがないわけじゃない。
お互いの家は行き来するし、遅くなるようだったら泊まることもある。
急に泊まりになってもいいように必要なものはお互いの家に置いてあるし。
だけど、旅行に来て泊まるってこと自体は初めてだった。
「うわ、綺麗だね!」
「すごいね、海見えるし」
付き合って1年以上が経つけど、ゆっくり遠出する時間はなかった。
いや、作ろうと思えば作れたのかもしれないけど、家でのんびりしてる時間も、近場でデートしてる時間も好きだったからあえて遠出しようとも思わなかった。
それは多分お互い同じ。
「初めてだよね、泊まりがけで出掛けるの。家以外に泊まるの、あの時のホテル以来じゃない?」
「あの時……あっ…もー、忘れてよ。あれはカウントされないの」
「じゃあほんとにこれが初めてだ」
からかうように笑ってそう言うと、頭をポンと撫でて部屋の奥に入っていった。