俺様紳士の恋愛レッスン
「えっと、とりあえずエンちゃん、中入って?」



照れくさそうに笑うタカちゃんは、そそくさとリビングに入っていった。

その背中を見届けて、ぼんやりと思う。


鞄に詰め込んできたことが見て取れるほど、くたっとしわが寄っていたあの日のスーツも、今日はパリっと音がしそうなほど糊が効いていて、綺麗な直線を描いている。

6年間、クローゼットの中で眠らせていたスーツを、わざわざこの時の為だけに、クリーニングに出したのだ。



「エンちゃん、あのね。色々考えたんだけど」



タカちゃんはこたつ机を挟んだ向かいに正座する。

視線は机と、壁と、私の顔を行ったり来たり。



「今月末の展覧会がダメだったら、潔く絵の道を諦めようと思うんだ。さすがにもう、潮時なのかなって」



胸に手を当てれば、鼓動は波打つ程荒れている。

けれど私の視線は、酷く冷静に、目の前で頬を染める男の人を捉えていた。

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