俺様紳士の恋愛レッスン
私は十夜の課題を守らなかった。

一昨日タカちゃんに言われたことを、報告しなかった。


揺れてしまった気持ちを責められることが怖くて、自分の意志の弱さが情けなくて、指導してくれている十夜に、申し訳なくて。



「室長はブラック、と。十夜は……」



迷った指は行き場をなくす。

やがて痺れを切らした自動販売機は、カランカランと虚しい音を響かせて、小銭を吐き出した。



「……私、何してんだろ」



あろうことか、大事な取引先の人間のコーヒーの好みを聞き忘れるだなんて。

今度こそ本当に失望されてしまったかもしれない。



「今はビジネス! ちゃんとしろっ!」



自分に活を入れ、小銭を再び投入した。

そして一般に男性が好みそうなブラックと微糖をセレクトし、黒の缶2本、金の缶1本を抱えて引き返す。


もしも十夜が微糖を選んだら、私は苦手なブラックを飲まなくてはならない。

そうならないことを祈りながら、静かにミーティングルームの扉を開けた。

< 182 / 467 >

この作品をシェア

pagetop