俺様紳士の恋愛レッスン
白いワイシャツは背を向けて、振り返ることなく、エンジン音と共に薄闇へと消えていった。

私は呼び止めることも、追いかけることも出来ずに、呆然と消失点を見つめる。



「……どうして」



“さよなら”なのに、あんなキスを残したのか。


最後のキスは、温かくて、優しくて、甘かった。

まるで、唇が『好きだ』って、囁いているようだった。



「十夜のバカ……」



疑似体験してしまった十夜の愛情は、私の知らない激しい熱だった。

冷たく突き放したくせに、「もっと教えて」と言わせるような、強引で俺様なキスだった。


こんな時まで意地悪をするだなんて、本当に性格が悪い。



十夜との契約はここで終わり。

情に戻ることは、私自身が選んだ答えだ。

熱いキスも、優しいキスも、忘れなければいけない。


……いけないのに。



「教えてよ……」



甘くてズルい、飴の味の忘れ方を。




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