俺様紳士の恋愛レッスン
「そーだ。私だけ十夜って呼ぶのもなんだよね」



私は「うーん」と腕を組み、白く塗られた剥き出しの天井を見つめた。



「私のことは、そうだなぁ……」



『篠宮』でもいいし、『まどか』と呼んでくれたら嬉しいけれど、ここはやっぱり……



「エン」



凛と響いた声は、今まさに私の頭の中で思い描いていた音そのもの。

瞬間、空間の雑音全てが無になるほどの衝撃が伝う。



「……なんで」



彼がその呼び名を知っているのか。

私は彼の前で、誰かにそう呼ばれただろうか。


目を見開いたまま固まる私を見て、彼の唇はふっ、と綺麗な弧を描く。



「常に広い視野を持ち、現状を正確に把握し、どんな小さな声にも耳を傾け、最善の答えを導き出す。それが俺の仕事だ」



まるで決め台詞のような言葉に、心臓がぶるっと震えるのを感じた。

慌ててサングリアを一口流し込むけれど、心拍数は上がるばかり。

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