俺様紳士の恋愛レッスン
「おはようございます」



視界の端、右斜め前から現れた渦中の人。



「おはよう、片柳君」

「おはようございます、山内室長」



そう返した目線は、こちらへゆっくりと移されて。



「おはようございます、篠宮さん」



今日も完璧な仕立ての笑みが、容赦なく私を刺す。



「……おはようございます、片柳サン」



今日も素敵な別人ですねと、心の中で悪態をつくけれど、それはバカみたいに早足になる心臓を、落ち着かせるための防衛行為だ。

今、私の目の前に居る彼はニセモノだ。
ホンモノの彼は意地悪で口が悪くて嫌なヤツ、そう頭に言い聞かせる。


そもそもここは会社であり、今はビジネスの時間だ。ミーティングには室長も居る。

2時間、余計なことは考えず、淡々と仕事をこなそうと決意して、ふっと大きく息をついた。



……はずだったのに。

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