好きだからキスして何が悪い?
ちら、と目の前の彼を見上げる。

如月くんが私に働かせようとする意図は謎だけど、一緒にいればもっと彼のことを知れるかもしれない。

教えてほしい、いろんなことを──。


「……わかりました。よろしくお願いします」


決心した私は、ぺこりとお辞儀した。

すると、店長さんは「助かるよ~ありがとぉー!」と両手で私の手を取り、ぶんぶんと振る。

びっくりしながらも笑っていると、さっそく事務所の方へと案内された。


如月くんのそばを通り過ぎる時、突然腕を掴まれて心臓が飛び跳ねる。

振り向くと、彼は耳元に顔を近付けてこう囁いた。


「俺の正体に気付いた代償だ。しっかり働けよ」


……そ、それが理由ですか!?


ふわりとシトラス系の香りが鼻をかすめ、甘さを感じる声が耳をくすぐってドキッとしたものの。

悪魔のような笑みを浮かべる彼に、私は石化しそうだった。


無茶苦茶だよ、意味わかんないよ!

でも、もうやると言ってしまった以上、後には引けないし引くつもりもない。やるしかないんだ、菜乃。

よーし。この真っ黒な王子様と、今日一日頑張ります!


< 44 / 278 >

この作品をシェア

pagetop