笑顔の裏側に
あの優しい温もりをもう一度求めてしまう。

私はもう先生の優しさから離れることが出来なくなってしまったのだろうか。

さっきのことと同時に蘇る先生の優しさや言葉の数々。

でももうそれが私に向けられることはない。

そう思うと胸が苦しくてたまらなかった。

ただひたすら気持ちを家事でごまかしていると、

「麻生、少し話そう。」

静かに先生はそう言った。

聞きたかった先生の優しい声。

だけど今からの話はきっと耳を塞ぎたくなるようなことばかりだ。

愛してるなんて嘘。

もう嫌いになった。

お前のこと、軽蔑したよ。

そう言う先生が容易に想像できる。

でももう取り返しはつかない。

このまま捨てられるんだ。

そう思うと先生の瞳を見ることができず、余計にきつく当たってしまう。

「話す必要などありません。今ので十分お分かりいただけたでしょう?」

「麻生…。」

そう言ってリビングを出て洗面所に向かう。

今度はちゃんとドアを閉めた。

気持ち悪い。

ほとんど何も口にしてないのに何でだろう。

やっぱりまだ治ってないからか…。

何も出てこないけど、流し向かって咳き込む。

あんなこと言いたかったわけじゃない。

ただそばにいて欲しかった。

こんな私を受け入れて欲しかった。

でもそれは叶わない。

咳き込む苦しさとともに私は静かに涙を流した。
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